2017年9月27日水曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく

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1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく

「ログアウト削除したのはこの世界の創造主である私、MUです。君たちを生かすも殺すも私次第ということです」

「ふ……ふざけるなぁああ!!」
「早くここからだしてよぉおお!!」

会議場はプレイヤー達のけたたましい怒号、悲鳴で溢れた。
俺は絶句し、つややかな黒髪の森ガール、イチゴは認めようとしなかった。

「ログアウト……できない……だと……?」
「嘘……嘘よね……?」

ログアウトできない。
それだけ、なら問題ないのだ。
だが、あの事件を俺たちは知っている。

あの事件とは、フルダイブ型MMORPGからログアウトできないことから始まった「デスゲーム」のことである。
ヘッドギアを外しての強制ログアウトをさせようとするならば、内蔵された高出力マイクロ波で脳を焼かれ、死に至る。
ゲーム内で死亡しても、マイクロ波で現実のプレイヤーの脳は焼かれてしまう。
ゲームをクリアしなければ、ログアウトできない。
そしてそのゲームの難易度はかなりシビアに設定されている。
凶悪、非人道的なゲームに何千人というプレイヤーが閉じ込められた事件だ。
もちろん、大勢の死者が出た。
故に「デスゲーム」と呼ばれている。

しかしそれならば、俺は否定する。
俺は知っている、ゲームにプレイヤーを縛り付ける事ができない理由を。

「あ、あぁ……嘘だ。ヘッドギアはあの事件以降、高出力マイクロ波を出ないように設計され直したんだ。だから強制ログアウトしようと思えばできるはずだ」
「そうだよね……」

「その通り、強制ログアウトはできますよ。レジェンド商店のトーマス君。中々鋭い指摘をありがとう」

俺達の会話に割って入るように、巨大な遮光器土偶、創造主MUは俺に話しかける。
突然の名指しに俺の反応が遅れる。

「なっ……!」
「しかし強制ログアウトには、ペナルティが課せられます。ペナルティについては言葉で説明するより、体験してもらったほうが早いですね。モニターにトーマス君を写しましょうか」

会議場の上部に大型モニターが現れた。
画面には俺が映されている。
戸惑う俺に土偶は指示した。

「一体何をさせようっていうんだ……」
「『まくら』、と言ってみてください」
「――は?」

まくら? そんなものを俺に言わせて何になるというのか。
俺達の運命の行方を見るために、会議場のプレイヤーたちは固唾を呑んで見守る。
再び自称創造主の土偶が俺に指図する。

「『まくら』と、言うのです」
「『メィクラ』……『メィクラ』?!」
「くっくっく……」

創造主は抑えきれずに笑いを漏らす。

俺は自分の耳と口を疑った。
会議場の雰囲気に流されるまま、俺は仕方なく一度「まくら」と発音した。
だが、それは「まくら」ではなかった。
理解が追いつかず、再び発音するも「マ」をうまく発音できない。
羊のように「メィ」と自然体で口から音が流れ出る。
なぜ「メィクラ」などと英語圏のネイティブスピーカーのような発音がでてしまうのか。
ちなみに「まくら」は日本語である。
俺は決してふざけてなどいない。
森ガールのイチゴは俺の異変に気づいたようだ。

「ど、どうしたの?! トーマス君! 変な発音になってるよ?!」
「なぜだ……なぜ『メィクラ』と言えないんだ!! 『メィクラ』と言おうとしているのに『メィクラ』と言ってしまう!!!」
「ちゃんとメィクラって言えてるよ!」
「違うんだ! 『メィクラ』!! ぐぁああああ!!!」
「頭が……おかしくなっちゃったの……?」

取り乱す俺を見て、不安を募らせるイチゴ。
それをよそに、創造主MUは続けて質問をする。

「では、トーマス君。『メィクラ』ってなんですか?」
「……知らないのか? ソールドアーゥト2オンラインだよ。俺はこのゲームを始めてから現実世界でも丸太を買い込むようになりました」
「トーマス君?!」

頭がっ……口が勝手に動きやがる!!
質問された瞬間、頭が真っ白になった……!
喋りのコントロールを失ったのだ……!
イチゴが驚いてとっさに俺の名前を呼ぶ。
俺がこの状況で、不適当なセリフを言ったからだ。

「くっくっく……諸君、ご覧の通りだ。これがペナルティ。強制ログアウトする君たちには『広告』になってもらう。日常会話はできても、このゲームに準ずるものを発音しようとすれば、『メィクラ』のようにアイテム名を言ってしまうようになる」

一体……何を言っているんだ……?
アイテム名? 広告?
ペナルティを受けたら、それを言わされるだと……?
にわかに信じがたい。
だが、現実に俺はメィクラと言わされ、広告文まで言わされた。
理解したくないが理解せざるをえない状況に俺は狼狽する。
創造主の話は続く。

「そして、それを聞き返された場合、SO2の宣伝をしたくなってしまうようにプログラムした。フルダイブ型ゲームは、人の脳内さえも書き換える事ができるとわかったのだ。私は17年の研究でそれを開発し、それを完成させたと同時にこのゲームも作り上げた――」

まるで人の脳内を当然いじれる、と言わんばかりに語り続ける創造主MU。
俺はどうしたらいいんだ……。


「お兄ちゃーん? ご飯だよー?」
「ユウナ……?!」

声がゲーム外から聞こえる。妹の声だ。もうそんな時間か……!
飯食ってる場合じゃねえのにッ……!!
俺はとっさに現実モードをオンにして妹と会話をできるようにする。

現実モードとは、ゲーム内では棒立ち状態で、現実側の肉体操作をできるようにするシステムである。
あの事件以来、フルダイブ型の危険性から外部干渉があった場合、ヘッドギアは感覚を現実とゲームどちらからも取得できる仕様になっているのだ。
妹のユウナが呆れたような物言いでつぶやく。

「まだゲームやってる……」
「今大事な所なんだ! あとでいくから!」
「あとでイクぅ? もしかしてエッチなのやってるぅ?」
「そうそう! 今いいところなの! ってちがっ、アッー!」

妹ながら馬鹿みたいな事を言いやがる。
勘弁してくれ……、俺は洗脳されてしまうかどうかの瀬戸際なんだ……!

「まあいいや。お兄ちゃん、ヘッドギア外すからね!」
「ユウナ、やめろっ!! 外すんじゃねえ!!」
「ご飯だって言ってるでしょ!」
「今はそれどころじゃないんだ!!!」
「冷めちゃうよ!!」
「ユウナぁああっ! やめろぉおお!!」

高かったヘッドギアを壊れないよう大事に押さえる俺。
それとはお構いなしに強引に手をかけて引っ張るユウナ。
結果――。

「えーいっ!!!」

ユウナの声が部屋に響く。
抵抗むなしく、俺はユウナに強制ログアウトをさせられた。
ログアウト酔いが俺を襲う。

「はっ……はぁっ……はぁっ……」
「大丈夫? お兄ちゃん……?」

大丈夫なわけがないだろう!!と言いたい所だが、ユウナも俺がこんなことになっているなんて知るわけがないのだ。
そんなことより、大事なことを確認しなければ……!!!
言うぞ、俺は間違いなく言うんだ……簡単なことだ……!!!

……せーのッ!

「『メィクラ』! ……ぐぁああああ!!!」
「お兄ちゃん?!」



1-5 SO2:店から始める職人生活 へ続く

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