2017年10月10日火曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-6 お風呂回サービスカット……省略されました

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1-6  お風呂回サービスカット……省略されました

俺は晩御飯を食べ終わり、風呂に入った。

「俺で遊ぶんじゃねーよ……」

湯船に浸かりながらつぶやく。
食事中、ユウナと母ちゃんは最初こそ心配したものの、二人して「スワンボートって何?」を面白半分に何度も質問してくる始末だった。
アイテムと関係ない会話であれば生活に支障はない、と説明した結果がそれだ。

浴室の外からドアの開く音が聞こえる。
誰かが脱衣所に入ってきたが、声ですぐ正体がわかる。

「お兄ちゃーん?」
「なんだよ……」
「さっきはごめんね……」
「ゆるさねー」

食事中のことを振り返りユウナは謝る。
俺はいつもの事だと思いながら、投げやりに答えた。
沈黙の空気が流れる。
ユウナがここにきた理由。
その答えは、食事中のそれとは違った。

「本当に大丈夫なの……?」
「俺を誰だと思ってるんだよ」
「そうだよね、私のお兄ちゃんだもん。すぐもとに戻るよね」
「あぁ、すぐに戻ってみせるさ」

たいして気にしてないかと思ったら、ユウナはユウナなりに俺のことを思ってくれていたらしい。
そんな妹を前にすれば、強がってしまうのは当然の事だ。
用件は済んだかと思ったら、ユウナの声がまた脱衣所から聞こえてくる。

「ソールドアーゥト2オンライン……だっけ?」
「そうだよ」
「私も協力すれば、何とかなるかなぁって」
「ダメだって言ったろ。二人でやれば早く攻略はできるかもしれない。けどそれ以上に危険なんだ。頭をいじられるんだぞ」
「私は、そんなに怖いとは思わない……かな」
「……なんでだよ」
「だってお兄ちゃん、いつもと変わらなくて……優しいから……ゲームの製作者の人は、それほど悪意があるわけじゃないんだと思うよ」

確かにその通りだ。
強制ログアウトした途端自殺、気が狂って人殺しなど、頭をいじれるなら簡単にできそうなものである。
悪意があるならとっくに俺はどうにかなっていたに違いない。

「ユウナの考えはわかった。だけど被害者を増やす必要もないだろ。それに悪意がないなら、それこそユウナが心配することじゃない」
「そっか……わかったよ。……最後に一言だけ言わせて」
「何だよ」

意外に素直に引き下がるユウナ。
話が平行線になったら俺が先に折れることは多かったが、今回ばかりはユウナも空気を察してくれたようだ。
しかし最後とは何を言おうというのだ。

ユウナは口を開く。

「――スワンボートって」
「ちょ、やめろ! あーあーっ、聞こえない!」

「……おまるなんだよね。がんばってね、お兄ちゃん」

そう言うと、妹は脱衣所から出ていった。
質問に対して広告文が発動すると伝えてあったから、そうならない方法をユウナは考えてひっかけてきたのだ。
まったく油断のならない妹である。
重苦しい雰囲気を和ませてくれようと一生懸命ユウナのやり方でやってくれたのかもしれないな。

何だ? うっぐぐ、口が勝手に……?!

「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!! あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


1-7 へ続く

2017年9月28日木曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-5 SO2:店から始める職人生活

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1-5 SO2:店から始める職人生活

「『メィクラ』……『メィ↑クラ↓』……『メィ……ク……ラ』」
「メィクラ?」

俺からヘッドギアを取り上げた少女は、俺のおかしな言葉に首をかしげる。

このショートヘアでボーイッシュな少女は俺の妹、ユウナだ。
女の子とは母ちゃん以外会話したことがないと言っていたが、ユウナは「妹」であって女の子ではない。
異性とは別の「妹」という属性なのだ。

何度イントネーションを変えて試してみるも、まくらと発音できない。
やはり俺の脳内、発声回路は「まくら」から「メィクラ」に書き換えられている。

おかしなワードを何度も口にしている俺に、ユウナが訝しげに問いかけた。

「お兄ちゃん……? 何その『メィクラ』って……」
「……知らないのか? ソールドアーゥト2オンラインだよ。ユウナも憧れのファンタジー世界にお店を出してみないか? お客はなんと俺だよ!」
「ソールドアーゥト2……? お兄ちゃんがやってるゲームなの?」
「ダメだ……! ユウナは絶対プレイしちゃいけない!!」
「え? やっちゃダメなの?」

問に対し、俺の口から広告文が発動する。
俺は強制ログアウトでペナルティを受けてしまったのだと確信した。
ゲームに誘っておきながら、するなとは、完全に矛盾している発言になっている。
俺自身もおかしなことを言っていると思う。
それでもユウナを巻き込むわけにはいかない。
俺はゲームから話をそらした。

「……とりあえずご飯に行くか……」
「う、うん」

ユウナは腑に落ちない様子だったが、ご飯が冷めてしまうと言った手前もあったのだろう、深く追求することをやめてくれた。
よし、一旦ご飯を食べて落ち着こう。
考えるのはそれからだ。
俺はSO2プレイ前にトイレに行ったきりだったのを思い出す。

「あ、先に『スワンボート』寄ってからいくわ」
「わかったよ……ん?」
「『スワンボート』……『スワン……ボート』?!」

馬鹿な……トイレとスワンボートは関係ないだろ!!!
どうなっているんだ。
俺は必死に考えを巡らせる。
答えがでない。
そうしている間に、おかしな人を見るような目でユウナは俺に問いかける。

「スワンボートって何……お兄ちゃん」
「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!!」
「だから、スワンボートって何なの?!」
「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!!」
「お母さぁぁあん!! お兄ちゃんがおかしくなっちゃった!!!」

ユウナは異変を感じて母の元へ走る。
スワンボートへの問いかけの回答広告文は固定されているようだ。
同じ広告文を連呼している俺自身、頭がおかしい人だと思う。

同じ広告文……?
おまるじゃなくてスワンボート……。
……おまる?!

「『スワンボート』……そうか!『スワンボート』とはつまり『スワンボート』のことで、ゲーム内ではスワンボートが『スワンボート』と呼ばれているアイテムだから、『スワンボート』をスワンボートと言ってしまうのか!!」

は……?

「一体俺は何を言っているんだ……?」

思いついた推理が霧散していく。
とにかくスワンボートだからスワンボートなのだ。
俺は、考えるのをやめた。


1-6 お風呂回サービスカット……省略されました へ続く

2017年9月27日水曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく

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1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく

「ログアウト削除したのはこの世界の創造主である私、MUです。君たちを生かすも殺すも私次第ということです」

「ふ……ふざけるなぁああ!!」
「早くここからだしてよぉおお!!」

会議場はプレイヤー達のけたたましい怒号、悲鳴で溢れた。
俺は絶句し、つややかな黒髪の森ガール、イチゴは認めようとしなかった。

「ログアウト……できない……だと……?」
「嘘……嘘よね……?」

ログアウトできない。
それだけ、なら問題ないのだ。
だが、あの事件を俺たちは知っている。

あの事件とは、フルダイブ型MMORPGからログアウトできないことから始まった「デスゲーム」のことである。
ヘッドギアを外しての強制ログアウトをさせようとするならば、内蔵された高出力マイクロ波で脳を焼かれ、死に至る。
ゲーム内で死亡しても、マイクロ波で現実のプレイヤーの脳は焼かれてしまう。
ゲームをクリアしなければ、ログアウトできない。
そしてそのゲームの難易度はかなりシビアに設定されている。
凶悪、非人道的なゲームに何千人というプレイヤーが閉じ込められた事件だ。
もちろん、大勢の死者が出た。
故に「デスゲーム」と呼ばれている。

しかしそれならば、俺は否定する。
俺は知っている、ゲームにプレイヤーを縛り付ける事ができない理由を。

「あ、あぁ……嘘だ。ヘッドギアはあの事件以降、高出力マイクロ波を出ないように設計され直したんだ。だから強制ログアウトしようと思えばできるはずだ」
「そうだよね……」

「その通り、強制ログアウトはできますよ。レジェンド商店のトーマス君。中々鋭い指摘をありがとう」

俺達の会話に割って入るように、巨大な遮光器土偶、創造主MUは俺に話しかける。
突然の名指しに俺の反応が遅れる。

「なっ……!」
「しかし強制ログアウトには、ペナルティが課せられます。ペナルティについては言葉で説明するより、体験してもらったほうが早いですね。モニターにトーマス君を写しましょうか」

会議場の上部に大型モニターが現れた。
画面には俺が映されている。
戸惑う俺に土偶は指示した。

「一体何をさせようっていうんだ……」
「『まくら』、と言ってみてください」
「――は?」

まくら? そんなものを俺に言わせて何になるというのか。
俺達の運命の行方を見るために、会議場のプレイヤーたちは固唾を呑んで見守る。
再び自称創造主の土偶が俺に指図する。

「『まくら』と、言うのです」
「『メィクラ』……『メィクラ』?!」
「くっくっく……」

創造主は抑えきれずに笑いを漏らす。

俺は自分の耳と口を疑った。
会議場の雰囲気に流されるまま、俺は仕方なく一度「まくら」と発音した。
だが、それは「まくら」ではなかった。
理解が追いつかず、再び発音するも「マ」をうまく発音できない。
羊のように「メィ」と自然体で口から音が流れ出る。
なぜ「メィクラ」などと英語圏のネイティブスピーカーのような発音がでてしまうのか。
ちなみに「まくら」は日本語である。
俺は決してふざけてなどいない。
森ガールのイチゴは俺の異変に気づいたようだ。

「ど、どうしたの?! トーマス君! 変な発音になってるよ?!」
「なぜだ……なぜ『メィクラ』と言えないんだ!! 『メィクラ』と言おうとしているのに『メィクラ』と言ってしまう!!!」
「ちゃんとメィクラって言えてるよ!」
「違うんだ! 『メィクラ』!! ぐぁああああ!!!」
「頭が……おかしくなっちゃったの……?」

取り乱す俺を見て、不安を募らせるイチゴ。
それをよそに、創造主MUは続けて質問をする。

「では、トーマス君。『メィクラ』ってなんですか?」
「……知らないのか? ソールドアーゥト2オンラインだよ。俺はこのゲームを始めてから現実世界でも丸太を買い込むようになりました」
「トーマス君?!」

頭がっ……口が勝手に動きやがる!!
質問された瞬間、頭が真っ白になった……!
喋りのコントロールを失ったのだ……!
イチゴが驚いてとっさに俺の名前を呼ぶ。
俺がこの状況で、不適当なセリフを言ったからだ。

「くっくっく……諸君、ご覧の通りだ。これがペナルティ。強制ログアウトする君たちには『広告』になってもらう。日常会話はできても、このゲームに準ずるものを発音しようとすれば、『メィクラ』のようにアイテム名を言ってしまうようになる」

一体……何を言っているんだ……?
アイテム名? 広告?
ペナルティを受けたら、それを言わされるだと……?
にわかに信じがたい。
だが、現実に俺はメィクラと言わされ、広告文まで言わされた。
理解したくないが理解せざるをえない状況に俺は狼狽する。
創造主の話は続く。

「そして、それを聞き返された場合、SO2の宣伝をしたくなってしまうようにプログラムした。フルダイブ型ゲームは、人の脳内さえも書き換える事ができるとわかったのだ。私は17年の研究でそれを開発し、それを完成させたと同時にこのゲームも作り上げた――」

まるで人の脳内を当然いじれる、と言わんばかりに語り続ける創造主MU。
俺はどうしたらいいんだ……。


「お兄ちゃーん? ご飯だよー?」
「ユウナ……?!」

声がゲーム外から聞こえる。妹の声だ。もうそんな時間か……!
飯食ってる場合じゃねえのにッ……!!
俺はとっさに現実モードをオンにして妹と会話をできるようにする。

現実モードとは、ゲーム内では棒立ち状態で、現実側の肉体操作をできるようにするシステムである。
あの事件以来、フルダイブ型の危険性から外部干渉があった場合、ヘッドギアは感覚を現実とゲームどちらからも取得できる仕様になっているのだ。
妹のユウナが呆れたような物言いでつぶやく。

「まだゲームやってる……」
「今大事な所なんだ! あとでいくから!」
「あとでイクぅ? もしかしてエッチなのやってるぅ?」
「そうそう! 今いいところなの! ってちがっ、アッー!」

妹ながら馬鹿みたいな事を言いやがる。
勘弁してくれ……、俺は洗脳されてしまうかどうかの瀬戸際なんだ……!

「まあいいや。お兄ちゃん、ヘッドギア外すからね!」
「ユウナ、やめろっ!! 外すんじゃねえ!!」
「ご飯だって言ってるでしょ!」
「今はそれどころじゃないんだ!!!」
「冷めちゃうよ!!」
「ユウナぁああっ! やめろぉおお!!」

高かったヘッドギアを壊れないよう大事に押さえる俺。
それとはお構いなしに強引に手をかけて引っ張るユウナ。
結果――。

「えーいっ!!!」

ユウナの声が部屋に響く。
抵抗むなしく、俺はユウナに強制ログアウトをさせられた。
ログアウト酔いが俺を襲う。

「はっ……はぁっ……はぁっ……」
「大丈夫? お兄ちゃん……?」

大丈夫なわけがないだろう!!と言いたい所だが、ユウナも俺がこんなことになっているなんて知るわけがないのだ。
そんなことより、大事なことを確認しなければ……!!!
言うぞ、俺は間違いなく言うんだ……簡単なことだ……!!!

……せーのッ!

「『メィクラ』! ……ぐぁああああ!!!」
「お兄ちゃん?!」



1-5 SO2:店から始める職人生活 へ続く

2017年9月23日土曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-3 SA○事件とは一体……何アートオンラインなんだ?

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1-3 SA○事件とは一体……何アートオンラインなんだ?

「何から始めますか? マスター」
「ちょっと散歩して考える事にするよ」
「お供しますっ」

あんなに一度に言われたって何から手をつけたらいいものか。
外に出て散策だ。
シアたんが後ろからヒラヒラとついてくる。
俺は、自分に眷属ができたと思うと嬉しくなった。
俺だけの従者。何でも言うことを聞いてくれる便利な妖精さん。
何でもって、これ読んでるあんたは何を想像してるんだよ!
俺は仕事の事を言ってるんだよ!
エッチなことは断じてするつもりはないっ!!(自爆)

俺の店の隣に、いつの間にか別の店ができていた。
天空から見下ろしたときはなかったから、俺の後から来たのだろう。
妖精が一生懸命その店に水を運んで来ている。
店から俺と同い年ぐらいだろうか、女の子が出てきた。
つややかな黒い長髪で、花柄のついた茶色いワンピース、さながら森ガールである。

「ありがとう、アルメリアちゃん」
「ふぃ〜っ、私の仕事ですからね」

一仕事終えて息をつく妖精。
俺とシアたんが会話している間に、既に水を汲みに行ったようだ。
情報収集と近所付き合いを兼ねて話しかけることにした。

シアたんで女性耐性がほんの少しついたようで、話を切り出す事ができた。

「よう」
「あっ、こんにちは〜」
「もう妖精に仕事させているんだな」
「うん。何もなければ始まらないからねぇ」

確かにその通りだ。
妖精さんには悪いが仕事をしてもらわなければ、売る商品も加工する素材も手に入らない。
俺もうかうかしていられれないな。
シアたんを見やると簡単に仕事を伝えた。

「それもそうか。シアたん、俺にも水取ってきてくれ」
「わかりましたっ! 倉庫から近所の地図とってきますね」
「あ、地図が必要なんだ」
「この辺の地理はわからなくって……すみません、マスター」
「いいよいいよ」

地図がなくても水ぐらい汲んでこれるだろうと思ったが、スライム狩りで説明された通り何を採るにしても地図は必要なのだ。
地図がなくては道がわからない、とは、シアたんは元々ここに住んでいたわけではなく、俺の店ができて一緒に生命を与えられたという事だろうか。
だとしたらこの辺りのことがわからないのも当然だ。

シアたんが店に地図を取りに戻ると、隣の店主の森ガールが話題をふってくる。

「そういえば、あなたのお店の名前、何ていうの?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はレジェンド商会のトーマス。よろしくな」
「私は森のエルフ食堂の……パーシー?」
「へぇ〜、あんたも機関車なんだ。って、俺は別に機関車って意味で名前つけたわけじゃねえよ?!」

俺の名前の元ネタは、間違っても教育テレビでやっているような、顔がついた水色の蒸気機関車ではない。
森ガールの店は食堂をする予定なのか。
勇者業では獣肉の燻製を使うとシアたんが言っていた。
いずれ取引させてもらうことになるかもしれないな。

機関車ではないと否定する俺を見て、少女は口に手を当てて笑う。

「あははっ、おかしい。ほんとの私の名前はイチゴっていうの」
「卍……解ッ!!!」
「普通に食べるほうね!」

*****

しばらく話して、俺は彼女に好意を持った。
見た目もかわいいし、世代も近いようにみえる。
もう少しお付き合いしたいと考え、時間を聞き出すことにした。

「今日は何時ぐらいまでSO2やる予定なんだ?」
「そうねぇ、晩御飯前、6時には一度ログアウトするかな」
「6時? 今はえっと……あれ?」

メニューを起動して時間を確認する。
今は17時を指しているが問題なのはそこじゃない。
俺の疑問に気づいた彼女は、何事かと俺のメニューを覗き込む。

「どうしたの?」
「……ログアウトボタンがないな……」
「え? 私のはあるよ? ほら……、あれ?」
「そっちもでてないな」

数年前の、あの事件が脳裏をよぎる。
まさか、そんなことはありえないだろう。
誰もが忘れたがっていた、あの事件。
俺もここでは、あえて触れないことにする。

「サービス開始直後だからな〜。早いとこ対応してほしいね」
「晩御飯までに直ってるといいけど……」
「間に合わなかったら詫び優待券チケット……だな!」
「……それ、いいね!」

なんとか明るく振る舞ってもどこか二人ともぎこちない。
お互いあの事件を意識してしまっているのだろう。
曇り気味な雰囲気の中に、地図をもったシアたんが店から出てきた。

「地図ありました! えっと、ここから水場に行くには……」

軽快にビリッと音を立て地図は破ける。
地図はそのまま光の粒子になってシアたんの手元から霧散した。
俺は驚いて変な声がでる。

「ファッ!?」
「はわわっ、破いてしまいました!!」
「誰だって失敗はあるさ、仕方な……ちょっと今のおかしくねぇ?!」
「大丈夫ですっ、マスターっ! 頭に地図は入りました! 行ってきますっ‼」
「あ……、あぁ! 気をつけて行ってこい!」

わざとはち切れんばかりに引っ張って破いたように見えたのは気のせいか。
不器用というレベルを超えているぞ……。

ポーッポワッパッパー♪

唐突にお気楽な電子音が二人の店から聞こえる。
気づかなかったが、スピーカーが屋根の下についているのか。

「何の音だ?」
「妖精さんが作業を完了したり、商品が完売すると鳴るんだよ」
「まさか、今シアたんが出ていったばっかりだぞ」
「私のも鳴ったみたい。メニューに通知出てる……」

俺もメニューを開く。
お知らせのボタンがポップアップしていた。

=====
重要なお知らせ

ログアウトボタンについて
問題が発生してログアウトができないようになっています。
早急に対応しております。
ご安心ください。
詳細は会議場にてお伝えします。

会議場はコチラ
=====

「会議場……、これをタップすればいいのか」
「あっ、押しちゃ――」

何か森ガールのイチゴが言いかけたが、俺は何も考えずタップした。


*****

一瞬目がくらんだかと思ったら、俺は先程の森とは違う、広いドームへ来ていた。
ここは……ゲームプレイヤー全員がここに連れてこられたのか?
辺りはガヤガヤ騒がしい。
俺はその人数に圧倒され、感嘆の声を漏らす。

「おぉ……。3000人以上いるみたいだな……」
「もう! お得意様登録ぐらいしてから移動したかったんだから! 近くにワープできたからよかったけど……」

森ガールのイチゴがあとから俺の隣へワープして飛んできたようだ。
お得意様登録、そういうのもあるのか。
メニューは一通り目を通しておかないといけないな。
俺は先に飛んだことを形だけでも謝罪することにした。

「悪い悪い。押せば『飛びますか』ぐらい警告文でるかと思ったらすぐに飛んじゃった」
「そうだったんだ」

逃げの口上を真に受けてくれて助かるぜ、イチゴたん。
まわりの会話に聞き耳をたてると、皆ログアウトについてを議論していた。
そんなことあるはずがない。あの事件がまた起きるなど、ありえない。
ログアウトボタンの消失はただのバグだ。
自分がそんな状況に巻き込まれるなどあってはならないと、希望ばかり口にするプレイヤー達。

ざわついた会場は、空のほうからアナウンスが流れると水をうったように静まり返る。
空には先程はなかった巨大な遮光器土偶のオブジェクトが浮遊していた。

「皆さん、ようこそMUTOYS島へ。ここは、好きなことを好きなだけやれる島です。ここの街を作るのはあなたです。どんな街になるのか誰にもわかりません」
「いいからさっさとログアウトさせろー!」

求めていたアナウンスと違い、野次を飛ばすプレイヤー。
そのために会議場をタップしたわけだしな。
確かに俺達が聞きたいのはログアウトについてだ。

「……仕方ないですね。まずはログアウトの説明からさせていただきます」

内容を切り替えて本題へと筋を修正する天の声。
誰もがあの事件を想像し、そうならないでくれと祈りながら耳を傾ける。

だが聞きたくなかった声が、無情にも会議場を恐怖に突き落とす。


「あなた達はログアウトができません。私が、そうさせたからです」


1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく へ続く

2017年9月21日木曜日

始めたばかりの人は、移動販売店舗がオススメ

移動販売店舗で引っ越ししました

移動販売店舗は高額な店舗に変える前にやってみた方がいい。
手頃な700G程度で、色々な場所に移動販売できるのだからお得この上ない。
場所によって商品の売れ筋は全然違うから、扱いたい製品をいい値段で売れる場所がいいに決まっているのだ。
また、人気のある道がたまたま空いていたなら、すかさず入り込みキープするにはもってこいである。

今後開拓される新たな土地で、とりあえず希少鉱物がとれる焦土をキープしてみるのもいいだろう。

ここで2017/09/19売上ナンバーワンのネモカツ氏を紹介したい。


何故か閉店している。稼ぎすぎてゴールしてしまったのだろうか。
希少鉱物が取れるガーネットの焦土には、売上ナンバーワンのネモカツ氏(何故か閉店している)が友人と組み(推測)、大金を稼いでは次々に山を埋めて店を建てた(たぶん)。
ガーネット街の焦土に食い込んで店が立っているのがそれだ。
埋め立てた先端には怪しげな店があるが、ネモカツ氏が閉店したのと何か関係があるかもしれない。
希少鉱物とは言うまでもなく、ミスリルである。
掘りまくって売りまくれば、多分儲かる!
その為にも、とりあえず確保の移動販売店舗というわけだ。

移動販売店舗というか、引っ越ししてから直ぐにはあまりものが売れないが、一時間経つとポツポツと売れてくる。
もちろん適正価格を設定している場合に限る。

俺自身も移動販売を試してみたから間違いない。

申請書を4枠使って販売した。

駆け出し店舗であるならばぜひ試してみてほしい。

2017年9月20日水曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-2 勇者の条件

1-2 勇者の条件

「正義の味方……ですか?」

珊瑚のような紅い髪の小さな妖精シアたんは、首をかしげた。

「俺は、勇者になれるって聞いてきたんだ」
「あーっ! 勇者ですね!」

シアたんは、腑に落ちたように手を打つと表情が明るくなる。

「まずは、装備を揃えましょう! マスターっ! モンスターを倒して勇者レベルをあげるのです!」
「お、そうだな!」
「その為には、近所の地図が今3枚あるので、資源を収集しに向かいます。それで集めた資源を作業でクラフトして……」
「ちょちょちょ、ちょっと待って?」

何だか会話の雲行きが怪しくなってきたので、シアたんにブレーキをかける。

俺の知ってるスライム狩りはもっと単純に、ドカッバキッ、スライムは死んだ。(スイーツ)的な序盤の経験値稼ぎに過ぎないのだ。
なぜそこに資源やクラフトなどという言葉が出てくるのか。
確かにRPGではなく、お店シミュレーションゲームではあるのだが……
念の為確認しておく必要があるだろう。
シアたんは、話を止められても気にしない様子で聞き返す。

「はい?」
「俺のイメージとしては、その辺にいるスライ厶を適当に狩れば、アイテムがドロップして……」
「何言ってるんですかっ!」
「は、はひっ」
「MUTOYS島には、まだ武器が存在していないのです! モンスターも最近いる事がわかったのですよ」
「え、そうなの」
「では、スライムの巣を攻略するまでの一連の流れを説明しますね」
「長くなりそうだな……」

*****
小一時間が経っただろうか。
ようやくシアたんの話の終わりが見えてくる。

「……と、スライムを狩るにはこれだけ必要なのですっ!」
「ばなな」

何だって?
革装備一式作るのにどれだけ工程が必要なんだよ……。
革を作るのになめし道具を鍛冶ハンマー?
俺もう頭の悪い人でいいよ……。
シアたん頭のいい人ね。
スライムからピ○太郎だとか、椎○林檎だとか、もう全く関係ない人物まで連想してるんでしょ?
はぁ〜……

「バナナは必要ありませんっ!」
「そうですね」

頭が痛くなっちゃいそう。

2017年9月19日火曜日

ソールドアーゥト2オンライン 1-1

第一章 どことなく人気アニメ化ラノベと似たタイトル

俺のハンドルネームは、トーマス。
好きなゲームの主人公の一人からとった名前。
そんなゲーム好きな俺は、トイレを済まし、水分を摂取し、万全の体制で布団に横たわる。

今日は待ちに待った大人気ゲームシリーズ、ソールドアーゥト2オンライン、略してSO2のサービス開始日だ。

「よし、俺が一番乗りだ!」

時間に合わせてヘッドギアを頭にセットする。あらかじめ、サービス前にダウンロードしておいたアプリを起動する。

「ログッ……イーーーンッ」

俺が大声で叫ぶと、意識はソールドアーゥト2オンラインの世界に溶け込んでーー。

「お兄ちゃんうるさいっ‼」

何か聞こえたが気にしない。

*****

「ここが、SO2の世界……」

俺は、広大な島を天空から見下ろしていた。
どこからか声が聞こえる。

「あなたのお店の場所を決めて下さい」

ソールドアーゥト2オンラインは、MUTOYS島の住民になって、木を切ったり加工したり、蚕から糸を紡いだり、モンスターを討伐に行ったり、様々な生産活動をしてそれを売買するゲームである。
その拠点となる店を決めろという事だ。
俺がこの世界でやる事はただ一つ!

「森の中に店を構えたい」
「そんな場所で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「わかりました。それではお店の名前を決めて下さい」

死亡フラグを立てていく受け答えをスルーされつつ、ゲームは進行していく。
店が森の中にニョキッと生える。
店の名前か……、いくつか候補はあるんだが……。

「店の名前は『レジェンド』にしたい」
「確認します……。他人に使われていない名前です。承認します」

これで一安心。
人気のある名前だと先に登録されていた場合、選べないことがよくある。
再び天の声がささやきかける。

「それでは、存分にこの世界、ソールドアーゥト2オンラインをお楽しみください……」

直後、自由落下。

「わぁあぁぁああああ!!!」

みるみるうちに、店の屋根が近づいてくる。
煙突が花のように開いて俺を飲み込む。
着地の衝撃。
暖炉の灰が吹き飛び店内を舞う。
盛大に尻もちをついた。
何なんだよ、こんな心臓に悪い導入必要あんのかよ!

「イテテ……」
「ご主人様?!」

俺を出迎えてくれたのは、手のひらほどの小さな少女。
整った顔立ちで、ウェーブのかかった長い髪は、珊瑚のように紅い色だ。
小さな少女は心配そうな顔で俺の様子を伺っている。
彼女の目を見つめていたら、少し驚いたように瞬きをして口を開く。

「あっ、大丈夫……ですか?」
「あ、あぁ……何とか」

立ち上がると、灰を払いながら辺りを見回す。商品棚とカウンターのある、シンプルな作りの店内。
窓は明かりを取り入れる為に、大きなものがついている。

「あなたが、私のご主人様ですよね?」
「そういうこと……だろうな」

この世界、SO2ではお手伝い妖精さんと呼ばれている。
基本的にプレイヤーは店番をして、アイテムの収集やクラフトは彼女達の仕事だ。
曖昧な返事に疑問を持ったのか、小さな少女は問いかける。

「違うのです?」
「いや、何でもない。それより、これからよろしくな。俺は、トーマス」
「はいっ、私はイキシアですっ。よろしくお願いしますっ」

俺が手を差し出すと、とても小さい手が俺の指先に触れる。ほんのり指先が温かい。
彼女の仕草や感情から読み取れるのは、細かなところまで行き届いた精巧なゲームという事だ。
俺の期待を裏切らない。
ここまでやってくれるなら、俺もロールプレイングをせざるを得ない。

「イキシアじゃ呼びにくいな、シアたんって呼んでいいか?」
「ふぇ?! あ、ありがとうございます! お願いします!」

思ってもない親しみを込めた愛称に歓喜するシアたん。
神よ、この娘を創りたもうてありがとう!

「シアたん、俺の事もトーマスでいいよ」
「とんでもございませんっ、呼び捨てなどもってのほかです……」

小さな少女は、申し訳なさそうに目をそらす。
もっと親密にならないと、呼び捨てはしてくれない仕様なのかもしれないな。
短く思案して妥協点を見つけた俺は、提案を持ちかけた。

「じゃあ、マスターで。トーマスだけに」
「わかりました! トースターっ」
「そうそう、パンを焼くのに便利なんだよな……って、マスターでもトーマスでもねえし! マが抜けてるじゃねーか!」
「ふぇ?! あっ、確かにマヌケですね!」
「マスターね、間違えないでね」

どうなってるんだよ……と思いつつも悪い気はしなかった。
シアたんと話をするのが新鮮で、とても嬉しかったからだ。
べっ……別に、決してリアルでモテないからとか、女の子と話した事がないからとか、そういう意味では断じてないぞ!

女の子と話した事あるんですけど!
でーと……? もした事あるんですけど!

嘘をつきました。
女の子と話をしたことなんて母ちゃん以外ありましぇーん。

「マスター……?」
「そう! ちょっと、それでもう一度出会った時のセリフ言ってみてよ」
「?……『大丈夫……ですか?』」
「その次のやつだよ」
「次の……? あっ」

何かに気付いたように、妖精は姿をくらます。
しばらくすると、床に魔法陣が描かれて淡く発光し始める。
魔法陣から吹き出た光は、ゆらゆらと空間に集まり1つに収束していく。
光が姿を形どると、やがて光はなくなり小さな少女が現れた。
珊瑚のように紅色の長い髪。
少女はゆっくりと瞼を開くと、凛とした表情で俺に目を合わせた。

「……問おう。貴方が、私のマスターか?」
「あぁ、ーー俺が、マスターだ」

*****

「さて……どんな感じで経営?を進めていけばいいんだ?」
「やりたい事があれば、それでいいんですよ、マスター! マスターは、何になりたいんです?」

彼女は優しく微笑んで、俺の要望を聞き出そうとする。
俺としてはチュートリアルのようなものを期待していたのだが、質問を質問で返されてしまった。

やりたい事か……。
夢を口に出して言うのも恥ずかしいものだが、ここはゲームの世界だ。
誰も俺を馬鹿になんて、したりしない。
何になりたいか、それだけは心に決めていたものがある。
俺はーー

「正義の味方(勇者)になりたいんだ」


1-2へ続く