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1-3 SA○事件とは一体……何アートオンラインなんだ?
「何から始めますか? マスター」
「ちょっと散歩して考える事にするよ」
「お供しますっ」
あんなに一度に言われたって何から手をつけたらいいものか。
外に出て散策だ。
シアたんが後ろからヒラヒラとついてくる。
俺は、自分に眷属ができたと思うと嬉しくなった。
俺だけの従者。何でも言うことを聞いてくれる便利な妖精さん。
何でもって、これ読んでるあんたは何を想像してるんだよ!
俺は仕事の事を言ってるんだよ!
エッチなことは断じてするつもりはないっ!!(自爆)
俺の店の隣に、いつの間にか別の店ができていた。
天空から見下ろしたときはなかったから、俺の後から来たのだろう。
妖精が一生懸命その店に水を運んで来ている。
店から俺と同い年ぐらいだろうか、女の子が出てきた。
つややかな黒い長髪で、花柄のついた茶色いワンピース、さながら森ガールである。
「ありがとう、アルメリアちゃん」
「ふぃ〜っ、私の仕事ですからね」
一仕事終えて息をつく妖精。
俺とシアたんが会話している間に、既に水を汲みに行ったようだ。
情報収集と近所付き合いを兼ねて話しかけることにした。
シアたんで女性耐性がほんの少しついたようで、話を切り出す事ができた。
「よう」
「あっ、こんにちは〜」
「もう妖精に仕事させているんだな」
「うん。何もなければ始まらないからねぇ」
確かにその通りだ。
妖精さんには悪いが仕事をしてもらわなければ、売る商品も加工する素材も手に入らない。
俺もうかうかしていられれないな。
シアたんを見やると簡単に仕事を伝えた。
「それもそうか。シアたん、俺にも水取ってきてくれ」
「わかりましたっ! 倉庫から近所の地図とってきますね」
「あ、地図が必要なんだ」
「この辺の地理はわからなくって……すみません、マスター」
「いいよいいよ」
地図がなくても水ぐらい汲んでこれるだろうと思ったが、スライム狩りで説明された通り何を採るにしても地図は必要なのだ。
地図がなくては道がわからない、とは、シアたんは元々ここに住んでいたわけではなく、俺の店ができて一緒に生命を与えられたという事だろうか。
だとしたらこの辺りのことがわからないのも当然だ。
シアたんが店に地図を取りに戻ると、隣の店主の森ガールが話題をふってくる。
「そういえば、あなたのお店の名前、何ていうの?」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はレジェンド商会のトーマス。よろしくな」
「私は森のエルフ食堂の……パーシー?」
「へぇ〜、あんたも機関車なんだ。って、俺は別に機関車って意味で名前つけたわけじゃねえよ?!」
俺の名前の元ネタは、間違っても教育テレビでやっているような、顔がついた水色の蒸気機関車ではない。
森ガールの店は食堂をする予定なのか。
勇者業では獣肉の燻製を使うとシアたんが言っていた。
いずれ取引させてもらうことになるかもしれないな。
機関車ではないと否定する俺を見て、少女は口に手を当てて笑う。
「あははっ、おかしい。ほんとの私の名前はイチゴっていうの」
「卍……解ッ!!!」
「普通に食べるほうね!」
*****
しばらく話して、俺は彼女に好意を持った。
見た目もかわいいし、世代も近いようにみえる。
もう少しお付き合いしたいと考え、時間を聞き出すことにした。
「今日は何時ぐらいまでSO2やる予定なんだ?」
「そうねぇ、晩御飯前、6時には一度ログアウトするかな」
「6時? 今はえっと……あれ?」
メニューを起動して時間を確認する。
今は17時を指しているが問題なのはそこじゃない。
俺の疑問に気づいた彼女は、何事かと俺のメニューを覗き込む。
「どうしたの?」
「……ログアウトボタンがないな……」
「え? 私のはあるよ? ほら……、あれ?」
「そっちもでてないな」
数年前の、あの事件が脳裏をよぎる。
まさか、そんなことはありえないだろう。
誰もが忘れたがっていた、あの事件。
俺もここでは、あえて触れないことにする。
「サービス開始直後だからな〜。早いとこ対応してほしいね」
「晩御飯までに直ってるといいけど……」
「間に合わなかったら詫び優待券チケット……だな!」
「……それ、いいね!」
なんとか明るく振る舞ってもどこか二人ともぎこちない。
お互いあの事件を意識してしまっているのだろう。
曇り気味な雰囲気の中に、地図をもったシアたんが店から出てきた。
「地図ありました! えっと、ここから水場に行くには……」
軽快にビリッと音を立て地図は破ける。
地図はそのまま光の粒子になってシアたんの手元から霧散した。
俺は驚いて変な声がでる。
「ファッ!?」
「はわわっ、破いてしまいました!!」
「誰だって失敗はあるさ、仕方な……ちょっと今のおかしくねぇ?!」
「大丈夫ですっ、マスターっ! 頭に地図は入りました! 行ってきますっ‼」
「あ……、あぁ! 気をつけて行ってこい!」
わざとはち切れんばかりに引っ張って破いたように見えたのは気のせいか。
不器用というレベルを超えているぞ……。
ポーッポワッパッパー♪
唐突にお気楽な電子音が二人の店から聞こえる。
気づかなかったが、スピーカーが屋根の下についているのか。
「何の音だ?」
「妖精さんが作業を完了したり、商品が完売すると鳴るんだよ」
「まさか、今シアたんが出ていったばっかりだぞ」
「私のも鳴ったみたい。メニューに通知出てる……」
俺もメニューを開く。
お知らせのボタンがポップアップしていた。
=====
重要なお知らせ
ログアウトボタンについて
問題が発生してログアウトができないようになっています。
早急に対応しております。
ご安心ください。
詳細は会議場にてお伝えします。
会議場はコチラ
=====
「会議場……、これをタップすればいいのか」
「あっ、押しちゃ――」
何か森ガールのイチゴが言いかけたが、俺は何も考えずタップした。
*****
一瞬目がくらんだかと思ったら、俺は先程の森とは違う、広いドームへ来ていた。
ここは……ゲームプレイヤー全員がここに連れてこられたのか?
辺りはガヤガヤ騒がしい。
俺はその人数に圧倒され、感嘆の声を漏らす。
「おぉ……。3000人以上いるみたいだな……」
「もう! お得意様登録ぐらいしてから移動したかったんだから! 近くにワープできたからよかったけど……」
森ガールのイチゴがあとから俺の隣へワープして飛んできたようだ。
お得意様登録、そういうのもあるのか。
メニューは一通り目を通しておかないといけないな。
俺は先に飛んだことを形だけでも謝罪することにした。
「悪い悪い。押せば『飛びますか』ぐらい警告文でるかと思ったらすぐに飛んじゃった」
「そうだったんだ」
逃げの口上を真に受けてくれて助かるぜ、イチゴたん。
まわりの会話に聞き耳をたてると、皆ログアウトについてを議論していた。
そんなことあるはずがない。あの事件がまた起きるなど、ありえない。
ログアウトボタンの消失はただのバグだ。
自分がそんな状況に巻き込まれるなどあってはならないと、希望ばかり口にするプレイヤー達。
ざわついた会場は、空のほうからアナウンスが流れると水をうったように静まり返る。
空には先程はなかった巨大な遮光器土偶のオブジェクトが浮遊していた。
「皆さん、ようこそMUTOYS島へ。ここは、好きなことを好きなだけやれる島です。ここの街を作るのはあなたです。どんな街になるのか誰にもわかりません」
「いいからさっさとログアウトさせろー!」
求めていたアナウンスと違い、野次を飛ばすプレイヤー。
そのために会議場をタップしたわけだしな。
確かに俺達が聞きたいのはログアウトについてだ。
「……仕方ないですね。まずはログアウトの説明からさせていただきます」
内容を切り替えて本題へと筋を修正する天の声。
誰もがあの事件を想像し、そうならないでくれと祈りながら耳を傾ける。
だが聞きたくなかった声が、無情にも会議場を恐怖に突き落とす。
「あなた達はログアウトができません。私が、そうさせたからです」
1-4 創造主とプレイヤー同士、会議場、何も起きないはずもなく へ続く
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