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1-6 お風呂回サービスカット……省略されました
俺は晩御飯を食べ終わり、風呂に入った。
「俺で遊ぶんじゃねーよ……」
湯船に浸かりながらつぶやく。
食事中、ユウナと母ちゃんは最初こそ心配したものの、二人して「スワンボートって何?」を面白半分に何度も質問してくる始末だった。
アイテムと関係ない会話であれば生活に支障はない、と説明した結果がそれだ。
浴室の外からドアの開く音が聞こえる。
誰かが脱衣所に入ってきたが、声ですぐ正体がわかる。
「お兄ちゃーん?」
「なんだよ……」
「さっきはごめんね……」
「ゆるさねー」
食事中のことを振り返りユウナは謝る。
俺はいつもの事だと思いながら、投げやりに答えた。
沈黙の空気が流れる。
ユウナがここにきた理由。
その答えは、食事中のそれとは違った。
「本当に大丈夫なの……?」
「俺を誰だと思ってるんだよ」
「そうだよね、私のお兄ちゃんだもん。すぐもとに戻るよね」
「あぁ、すぐに戻ってみせるさ」
たいして気にしてないかと思ったら、ユウナはユウナなりに俺のことを思ってくれていたらしい。
そんな妹を前にすれば、強がってしまうのは当然の事だ。
用件は済んだかと思ったら、ユウナの声がまた脱衣所から聞こえてくる。
「ソールドアーゥト2オンライン……だっけ?」
「そうだよ」
「私も協力すれば、何とかなるかなぁって」
「ダメだって言ったろ。二人でやれば早く攻略はできるかもしれない。けどそれ以上に危険なんだ。頭をいじられるんだぞ」
「私は、そんなに怖いとは思わない……かな」
「……なんでだよ」
「だってお兄ちゃん、いつもと変わらなくて……優しいから……ゲームの製作者の人は、それほど悪意があるわけじゃないんだと思うよ」
確かにその通りだ。
強制ログアウトした途端自殺、気が狂って人殺しなど、頭をいじれるなら簡単にできそうなものである。
悪意があるならとっくに俺はどうにかなっていたに違いない。
「ユウナの考えはわかった。だけど被害者を増やす必要もないだろ。それに悪意がないなら、それこそユウナが心配することじゃない」
「そっか……わかったよ。……最後に一言だけ言わせて」
「何だよ」
意外に素直に引き下がるユウナ。
話が平行線になったら俺が先に折れることは多かったが、今回ばかりはユウナも空気を察してくれたようだ。
しかし最後とは何を言おうというのだ。
ユウナは口を開く。
「――スワンボートって」
「ちょ、やめろ! あーあーっ、聞こえない!」
「……おまるなんだよね。がんばってね、お兄ちゃん」
そう言うと、妹は脱衣所から出ていった。
質問に対して広告文が発動すると伝えてあったから、そうならない方法をユウナは考えてひっかけてきたのだ。
まったく油断のならない妹である。
重苦しい雰囲気を和ませてくれようと一生懸命ユウナのやり方でやってくれたのかもしれないな。
何だ? うっぐぐ、口が勝手に……?!
「これはおまるじゃなくてスワンボートだっつってんだろ!! あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
1-7 へ続く
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