第一章 どことなく人気アニメ化ラノベと似たタイトル
俺のハンドルネームは、トーマス。
好きなゲームの主人公の一人からとった名前。
そんなゲーム好きな俺は、トイレを済まし、水分を摂取し、万全の体制で布団に横たわる。
今日は待ちに待った大人気ゲームシリーズ、ソールドアーゥト2オンライン、略してSO2のサービス開始日だ。
「よし、俺が一番乗りだ!」
時間に合わせてヘッドギアを頭にセットする。あらかじめ、サービス前にダウンロードしておいたアプリを起動する。
「ログッ……イーーーンッ」
俺が大声で叫ぶと、意識はソールドアーゥト2オンラインの世界に溶け込んでーー。
「お兄ちゃんうるさいっ‼」
何か聞こえたが気にしない。
*****
「ここが、SO2の世界……」
俺は、広大な島を天空から見下ろしていた。
どこからか声が聞こえる。
どこからか声が聞こえる。
「あなたのお店の場所を決めて下さい」
ソールドアーゥト2オンラインは、MUTOYS島の住民になって、木を切ったり加工したり、蚕から糸を紡いだり、モンスターを討伐に行ったり、様々な生産活動をしてそれを売買するゲームである。
その拠点となる店を決めろという事だ。
俺がこの世界でやる事はただ一つ!
「森の中に店を構えたい」
「そんな場所で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「わかりました。それではお店の名前を決めて下さい」
死亡フラグを立てていく受け答えをスルーされつつ、ゲームは進行していく。
店が森の中にニョキッと生える。
店の名前か……、いくつか候補はあるんだが……。
「店の名前は『レジェンド』にしたい」
「確認します……。他人に使われていない名前です。承認します」
これで一安心。
人気のある名前だと先に登録されていた場合、選べないことがよくある。
再び天の声がささやきかける。
人気のある名前だと先に登録されていた場合、選べないことがよくある。
再び天の声がささやきかける。
「それでは、存分にこの世界、ソールドアーゥト2オンラインをお楽しみください……」
直後、自由落下。
「わぁあぁぁああああ!!!」
みるみるうちに、店の屋根が近づいてくる。
煙突が花のように開いて俺を飲み込む。
着地の衝撃。
暖炉の灰が吹き飛び店内を舞う。
盛大に尻もちをついた。
何なんだよ、こんな心臓に悪い導入必要あんのかよ!
「イテテ……」
「ご主人様?!」
俺を出迎えてくれたのは、手のひらほどの小さな少女。
整った顔立ちで、ウェーブのかかった長い髪は、珊瑚のように紅い色だ。
小さな少女は心配そうな顔で俺の様子を伺っている。
彼女の目を見つめていたら、少し驚いたように瞬きをして口を開く。
「あっ、大丈夫……ですか?」
「あ、あぁ……何とか」
立ち上がると、灰を払いながら辺りを見回す。商品棚とカウンターのある、シンプルな作りの店内。
窓は明かりを取り入れる為に、大きなものがついている。
「あなたが、私のご主人様ですよね?」
「そういうこと……だろうな」
この世界、SO2ではお手伝い妖精さんと呼ばれている。
基本的にプレイヤーは店番をして、アイテムの収集やクラフトは彼女達の仕事だ。
曖昧な返事に疑問を持ったのか、小さな少女は問いかける。
「違うのです?」
「いや、何でもない。それより、これからよろしくな。俺は、トーマス」
「はいっ、私はイキシアですっ。よろしくお願いしますっ」
俺が手を差し出すと、とても小さい手が俺の指先に触れる。ほんのり指先が温かい。
彼女の仕草や感情から読み取れるのは、細かなところまで行き届いた精巧なゲームという事だ。
俺の期待を裏切らない。
ここまでやってくれるなら、俺もロールプレイングをせざるを得ない。
「イキシアじゃ呼びにくいな、シアたんって呼んでいいか?」
「ふぇ?! あ、ありがとうございます! お願いします!」
思ってもない親しみを込めた愛称に歓喜するシアたん。
神よ、この娘を創りたもうてありがとう!
「シアたん、俺の事もトーマスでいいよ」
「とんでもございませんっ、呼び捨てなどもってのほかです……」
小さな少女は、申し訳なさそうに目をそらす。
もっと親密にならないと、呼び捨てはしてくれない仕様なのかもしれないな。
短く思案して妥協点を見つけた俺は、提案を持ちかけた。
小さな少女は、申し訳なさそうに目をそらす。
もっと親密にならないと、呼び捨てはしてくれない仕様なのかもしれないな。
短く思案して妥協点を見つけた俺は、提案を持ちかけた。
「じゃあ、マスターで。トーマスだけに」
「わかりました! トースターっ」
「そうそう、パンを焼くのに便利なんだよな……って、マスターでもトーマスでもねえし! マが抜けてるじゃねーか!」
「ふぇ?! あっ、確かにマヌケですね!」
「マスターね、間違えないでね」
どうなってるんだよ……と思いつつも悪い気はしなかった。
シアたんと話をするのが新鮮で、とても嬉しかったからだ。
べっ……別に、決してリアルでモテないからとか、女の子と話した事がないからとか、そういう意味では断じてないぞ!
女の子と話した事あるんですけど!
でーと……? もした事あるんですけど!
嘘をつきました。
女の子と話をしたことなんて母ちゃん以外ありましぇーん。
「マスター……?」
「そう! ちょっと、それでもう一度出会った時のセリフ言ってみてよ」
「?……『大丈夫……ですか?』」
「その次のやつだよ」
「次の……? あっ」
何かに気付いたように、妖精は姿をくらます。
しばらくすると、床に魔法陣が描かれて淡く発光し始める。
魔法陣から吹き出た光は、ゆらゆらと空間に集まり1つに収束していく。
光が姿を形どると、やがて光はなくなり小さな少女が現れた。
珊瑚のように紅色の長い髪。
少女はゆっくりと瞼を開くと、凛とした表情で俺に目を合わせた。
「……問おう。貴方が、私のマスターか?」
「あぁ、ーー俺が、マスターだ」
*****
「さて……どんな感じで経営?を進めていけばいいんだ?」
「やりたい事があれば、それでいいんですよ、マスター! マスターは、何になりたいんです?」
彼女は優しく微笑んで、俺の要望を聞き出そうとする。
俺としてはチュートリアルのようなものを期待していたのだが、質問を質問で返されてしまった。
やりたい事か……。
夢を口に出して言うのも恥ずかしいものだが、ここはゲームの世界だ。
誰も俺を馬鹿になんて、したりしない。
何になりたいか、それだけは心に決めていたものがある。
俺はーー
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